メタボ基準、異論百出…測定不要論も
男85 女90センチ
へそにメジャーをあてられ、腹囲を計測する男性(東京・赤坂の「コマツ」本社で)
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20090603-OYT8T00424.htm
メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を見つけるため、腹囲測定などを行う特定健診・保健指導(メタボ健診)が2年目に入った。腹囲の基準に異論を唱える研究報告が相次ぎ、専門家の間で見直し論議に拍車がかかっている。(医療情報部 利根川昌紀)
心臓病や脳梗塞(こうそく)を引き起こす生活習慣病の原因として、高血圧や高血糖、脂質異常と併せて肥満をチェックするのがメタボ健診だ。腹囲の基準値は男性85センチ、女性90センチ。日本人の男女約750人のへその辺りの内臓脂肪面積をコンピューター断層撮影法(CT)で計測し、100平方センチ以上になると、高血圧や高血糖など、生活習慣病を引き起こす危険要因の数が増えるという日本肥満学会のデータを基に算定された。
これに対し厚生労働省研究班(班長=津金昌一郎・国立がんセンター予防研究部長)は今年、「心臓病や脳梗塞などの予防には、メタボ対策よりも高血圧対策が重要」という研究結果を公表した。
研究班が40~69歳の男女約2万3000人を平均11年間追跡したところ、高血圧を治療すれば男性48%、女性で45%発症を減らせるのに対し、メタボ解消では20%未満しか改善効果がないとの結論が得られた。研究をまとめた磯博康・大阪大教授(公衆衛生学)は「肥満を必須条件とする現在の基準では、やせていて血圧が高めの人など、脳卒中や心筋梗塞になる危険性の高い人への対応が不十分になる」と説明する。
愛知県の約3000人を対象にした別の厚労省研究班も今年、「腹囲が大きいだけでは生活習慣病との関連はそれほど強くない」との研究結果を発表、腹囲の指標を切り捨てた。
一方、腹囲の基準値を設けることに肯定的な研究者でも、数値についての意見はバラバラだ。
門脇孝・東京大教授(糖尿病・代謝内科)が班長の厚労省研究班は、全国の男女3万3000人について、高血糖、高血圧、脂質異常と腹囲との関連を調査。中間解析では、男性84センチ以上、女性は81センチ以上になると、2項目以上の異常を併せ持つ割合が約3倍高かった。門脇教授は「女性の基準は80センチが良いのではないか」と話す。
一方、米国の基準は男性102センチ超、女性88センチ超。また、国際糖尿病連合の基準では、欧州人が男性94センチ以上、女性80センチ以上、日本人は男性90センチ以上、女性80センチ以上で、いずれも男性の方が女性よりも大きい。
現在の国の基準は2005年、日本肥満学会など8学会が合同で決めた。松沢佑次・同学会理事長(住友病院院長)は、「CT画像から内臓脂肪面積まで測って基準値を決めたのは日本だけ。女性は皮下脂肪が多く、心筋梗塞の危険は男性より低い。妥当な基準だと思うが、学会としてもデータを集め、検証をしていく」と話す。
厚労省は「肥満は生活習慣病に大きくかかわっており、健診で腹囲を測ることには意味がある。だが、基準値については、見直しも含めて柔軟に対応したい」としている。
世界保健機関(WHO)でも現在、腹囲の基準を決める作業を進めている。決定版となる数値が示されるかどうか、注目される。
「なぜ腹囲だけ問題」
「ワイシャツをめくっておへそを出してください」
今春、大手重機メーカー「コマツ」本社(東京・赤坂)での特定健診。会場の一角では、社員のおなかにメジャーがあてられ、腹囲の測定が行われていた。
ある男性社員は、血圧などはすべて正常なのに、腹囲は90センチと基準を5センチオーバー。男性は「なぜ取り立てて腹囲を問題にするのか。なんだか不健康だと言われたようで……」と納得いかない様子だった。
逆に、血圧などに異常があっても腹囲が基準以下のため指導の対象とならない社員も男性で約20%、女性は約15%いた。担当者は「本当に生活習慣病の危険がある人を抽出できているのか」と首をかしげる。「85センチはだめだが、84センチならいいというわけではない」とし、腹囲に関係なく、全員に保健指導を行う兵庫県尼崎市のような自治体もある。
数値改善 一定の効果
特定健診の狙いは、生活習慣病になる人を減らし、医療費削減につなげることだ。国は、生活習慣病にかかる医療費を約10兆円と推計。これは医療費の3分の1に当たり、2015年度までに患者やその予備軍を25%削減する計画だ。
日本看護協会は、07年度から先行的にメタボ健診を始めた自治体や企業の健康保険組合の男女約400人の数値を分析。1年間で体重は1・4キロ・グラム、腹囲は1・8センチ減り、血糖値と中性脂肪の数値も改善した。分析に当たった尾島俊之・浜松医大教授(健康社会医学)は、「途中経過としては一定の効果が見られるが、最終的に生活習慣病の減少につながるかどうかは、長期的に見ていく必要がある」と話す。
特定健診・保健指導 企業の健保組合や市町村などの保険者に対し2008年度から、40~74歳の人を対象にした実施が義務付けられた。腹囲に加え、血圧、血糖値、脂質のうち一つに異常があれば、原則1回、面接指導を行う「動機づけ支援」、二つ以上異常があれば3~6か月継続指導する「積極的支援」が行われる。受診率や保健指導の実施率などが低いと、後期高齢者医療への財政負担が増すペナルティーを科す仕組みが導入されている。
(2009年6月3日 読売新聞)
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